
あらすじ◆
毎日求職活動を続けていたジェラールだが、今日は「就職内定」の吉報をもって帰宅。そして、明日は会社の部長を食事に招いての最終選考。決まれば、念願のインドネシアのアルミ工場の責任者として迎えられる。ジェラール夫妻にとって人を食事に招いた事など一度もない。見かねた階下の失業暦5年という御親切さんの猛特訓を受けることになる。大好きな部屋中を走る鉄道模型、マチスの金魚の絵、水槽の金魚、競馬新聞などことごとく御親切さんの手によって片付けられ困惑するジェラール。
そして当日。慌しく準備をしているところへ、約束の時間より2時間も早くやって来た部長と名乗る男。以外にも鉄道模型の大ファンでジェラールと意気投合。シャンパンを2本もあけて、盛り上がっているところへ、御親切さんが戻ってくる。果たして部長さんは本物なのか………。
解説◆
失職中の、子供のいない中年夫婦ジェラールとコレット。職探しに追われる毎日の、ほんのわずかな安らぎは、子供代わりに愛玩している金魚の「ニャン子」、そして家じゅうに敷設されたミニチュア鉄道。夫ジェラールの就職活動は紆余曲折、波乱万丈の展開を経て、この芝居の幕切れ近く、やっと実を結んだかに見える、が、この社会に生息する限り、彼らの苦難が消え去る日はついにこないのかもしれない…そんな苦しい、だが一人一人の登場人物を抱きしめたくなるような熱い余情が、終幕の舞台に漂う。
一難去ってまた一難、この世の宿命を背負って、彼らは、そして我々は、どこまでしぶとく生き続けることができるのか。この地球上の数限りない会社人間の一人一人に通じる、社会という金魚鉢の中の悪戦苦闘を描いて、「喜劇・人間の条件」とでも言いたいような深みと苦みと温かさをかもしだす、これは実に魅力的な戯曲です。